多くの業界でICT化が進んでいますが、自身の介護現場で導入したいけどそもそも「導入する必要はあるの」「ICTを導入するメリット・デメリットは何か」と気になる人も多いでしょう。
結論、介護現場にICTを導入すれば以下のようなメリットが得られます。
- 情報共有・連携がスムーズになる
- 業務効率化によって介護スタッフの負荷を減らせる
- 介護サービスの品質向上につながる
さまざまなメリットがありますが、実際に導入するためにはICTのデメリットや注意点も確認しておく必要があるでしょう。
本記事では、介護現場にICT導入が求められる理由やメリット・デメリットまで詳しく解説します。
介護現場にICTが求められている理由

介護現場にICTが求められている理由は、以下のとおりです。
- 介護人材不足
- 高齢化による介護需要の増加
それぞれ詳しく解説します。
介護人材不足
近年、介護現場は以下のような理由から慢性的な人材不足が問題となっています。
- 少子高齢化の進行
- 介護業界の離職率が高い
- 介護人材の採用が難しい

日本全体で生産労働年齢人口が減少しているほか、介護業界は離職率の高さや介護人材の採用が難しいことが原因で、より深刻な状況に直面しています。
人手不足を補うためにも、ICTを導入して業務効率化を進めることが重要といえるでしょう。
参考:介護事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版 | 厚生労働省
高齢化による介護需要の増加
少子高齢化の進む日本では、介護人材の需要が増加しています。
少子高齢化の加速が止まらなければ、将来的に75歳以上の人口に占める割合が20%を超える超高齢化社会になる可能性があります。

また、介護業界では需要に対して2025年度には約55万人の人材が不足すると考えられており、介護人材の供給がまったく追い付いていない状態です。
その上、介護業界は多様化しつつあるため、ニーズを満たせるきめ細かいサービスの提供が求められています。
介護人材一人ひとりのサービスの質を向上するためにも、ICTによって業務効率化をおこなう必要があるといえるでしょう。
参考:介護事業における生産性向上に資するガイドライン 改訂版 | 厚生労働省
介護現場にICTを導入するメリット

介護現場にICTを導入するメリットは、以下のとおりです。
それぞれ詳しく解説します。
いまいちICTを導入するメリットがわからないと感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。
情報共有・連携がスムーズになる
介護現場にICTを導入すると、情報共有・連携がスムーズになります。
たとえば、訪問介護を受けている利用者が転倒し、急遽救急搬送される場合を考えてみましょう。
紙ベースで管理された情報だと、搬送先の病院へ利用者のケア履歴や薬の情報をFAXや郵送で送る必要があり、時間がかかるうえ、情報漏れのリスクも生じます。
しかし、ICT化によりデータを電子的に管理していれば、利用者情報をメール添付で送ったり、クラウドシステムで共有したりすることで、迅速かつ正確な情報提供が可能になります。
ICT導入によって対応スピードが向上するため、利用者の安全確保にもつながるでしょう。
業務効率化によって介護スタッフの負荷を減らせる
ICT化により業務効率化が進むと、介護スタッフの負担軽減につながります。
たとえば、これまで手書きでおこなっていた利用者のケア記録をタブレットで入力する仕組みに変えると、記録作業が大幅に短縮されます。
また、入力したデータが自動で集計・共有されるシステムを導入すれば、利用者の健康管理や家族への報告業務を効率よくおこなえるため、紙資料の整理や手作業によるミスも防げるでしょう。
さらに、スタッフ間でリアルタイムに情報共有が可能になることで、引き継ぎミスのリスクが減少し、現場での混乱が軽減されます。
このような仕組みを活用することで、介護スタッフが本来注力すべき利用者とのケア時間を確保できるようになり、サービスの質の向上にもつながります。
介護サービスの品質向上につながる
ICT化による業務効率化は、介護サービスの品質向上にもつながります。
たとえば、利用者の健康状態やケア記録をデジタル化して管理することで、スタッフが利用者の状況をリアルタイムに把握できます。
食事内容や体調の変化を適切に把握し、状況に応じて柔軟に対応できるようになるでしょう。
また、データが蓄積されることで、利用者ごとの長期的な健康状態の変化も把握しやすくなり、個別のケアプラン精度が向上します。
さらに、情報共有がスムーズになれば、医療機関や家族との連携も円滑に進み、利用者にとって最適なサービスを提供できます。
介護現場にICTを導入するデメリット

介護現場にICTを導入するデメリットは、次のとおりです。
ICTのメリットばかりではなく、デメリットも確認しておくようにしてください。
費用が発生する
ICT導入は、費用が発生する点がデメリットといえるでしょう。
システムを導入するためには、PCやモバイル端末、インターネット環境などさまざまな設備投資が必要になります。
回線の契約やシステムの月額料金など、介護現場でICTを導入する場合は、ランニングコストも少なからず発生すると考えておいてください。
業務効率化やサービスの品質を向上させたいと考えている方は、合計でどのくらいの費用が発生するのかよく確認しましょう。
情報漏洩のリスクがある
介護現場にICTを導入した場合は、情報漏洩のリスクも確認しておく必要があります。
利用者のデータを管理するようなシステムの場合、サイバー攻撃や社内の人間のミスによって個人情報が流出する可能性があります。
ICTを導入する場合は、各施設・事業所で個人情報の取り扱いや管理方法を定めておき、情報漏洩に注意してください。
操作になれるまでに時間がかかる
介護事業所の方は、PCやタブレットなどのICTに慣れていない場合が多いです。
特に、ICTに対して苦手意識を持つスタッフの場合は、使用方法をレクチャーする必要があるほか、スムーズに利用できるまでには時間を要します。
導入したまま研修なしに進めていると、面倒に感じる方も少なくなく、費用をかけたのにもかかわらず利用されないリスクがあります。
OJTや社内勉強会、ベンダーに協力をもらうなど、導入のハードルを下げる取り組みが必要といえるでしょう。
介護現場のICT導入に役立つ支援制度
介護現場にICTを導入する場合は、ICT導入補助金の利用がおすすめです。
ICT導入補助金は、介護現場の業務効率化・負担軽減を目的とし、ICT化をおこなう施設・事業所に対して補助金を支給する制度です。
導入のコストが高くてなかなか踏み切れないと悩んでいる方は、ぜひICT導入補助金の利用を検討してみてください。
補助金対象のICT
ICT導入補助金の対象となるICTは、以下のとおりです。
- 情報端末(スマートフォン、タブレット、インカム など)
- 介護ソフト(ケアカルテ、ケア樹 など)
- 通信環境機器(Wi-Fiルーター)
- 運用経費(クラウド利用料、サポート料、研修費 など)
- バックオフィスソフト(シフト管理、請求管理、勤怠管理 など)
参考:令和5年度厚生労働省予算案の主要事項 | 厚生労働省
介護現場にICTを導入する場合の補助金額
介護現場にICTを導入する場合の補助金額は、以下のように職員数に応じて異なります。
- 1〜10人:100万円
- 11〜22人:160万円
- 21〜30人:200万円
- 31人以上:260万円
補助率は都道府県が設定しますが、以下の条件のいずれかを満たしている場合、補助率の下限が 4分の3 になります。
- ケアプランデータ連携システム等を利用している
- LIFEのCSV連携仕様に対応した介護ソフトを使い、実際にデータ登録を行っている
- ICT導入計画で文書量を半減する目標を立てている
反対に満たしていない場合は、補助率の下限は 2分の1 となるため注意しましょう。
参考:令和5年度厚生労働省予算案の主要事項 | 厚生労働省
ICT導入支援事業で求められる要件
ICT導入補助金を利用したいと考えている方は、以下の要件を満たしているかどうか確認しましょう。
- 「LIFE」による情報収集・フィードバックに協力すること
- 他事業所からの照会に対応すること
- 都道府県へ導入計画と導入効果報告を提出すること(導入効果報告は2年間必要)
- IPAが実施する「セキュリティアクション」の「一つ星」または「二つ星」のいずれかを宣言していること
- ICTの活用により収支状況の改善が図られた場合は、職員の賃金に還元すること(導入効果報告により確認)
LIFEは、厚生労働省が運用するエビデンスに基づいた高品質な介護をおこなうためのデータベースです。
参考:令和5年度厚生労働省予算案の主要事項 | 厚生労働省
介護現場のICT化に関するよくある質問
- 介護現場に導入するICT技術にはどのようなもの
- 介護現場に導入するICT技術は、以下のようなものが挙げられます。
・介護ソフト
・勤怠・給与計算システム
・見守りシステム
・誤薬防止システム
・送迎システム
・介護請求ソフト
利用者情報の管理やケアプランを作成する介護ソフトや、介護現場の煩雑なシフト管理をおこなう勤怠システムなどがICT技術の例としてあります。
そのほかにも、居室にセンサーを設置して容態の変化や転倒などの状況をモバイル端末やナースコールに通知する見守りステムなどもあるため、ニーズに応じて導入するシステムを選定しましょう。
- 介護業界のICT化が進まない原因は何ですか?
- 介護業界のICT化が進まない原因は、以下のとおりです。
・介護職員のITスキル不足
・資金不足やコストの問題
・ICT導入環境が整備されていない
・法的・規制上の問題
そもそも介護職員のITスキル不足で導入のハードルが高い点や、予算が限られていることからITシステムやソフトウェアの導入にコストを割けない点が挙げられます。
また、ICT導入のためのネットワーク環境が整備されていないことや、法的・規則に縛られてうまく導入できないことが原因として考えられます。
まとめ | 介護現場に最適なICTを導入して業務効率化を実現しよう
ICTの導入はコストがかかるほか、慣れるまでに時間がかかりますが、うまく活用すれば以下のようなメリットがあります。
介護人材不足の解消につながるほか、業務効率化によって介護スタッフの負荷を減らせるため、より高品質な介護サービスを提供できるようになります。
また、コストがきつくて導入できないと悩んでいる場合は、ICTの導入補助金も利用してみると良いです。
適切なICTを導入し、介護現場の業務効率を向上させましょう。